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横浜家庭裁判所川崎支部 平成8年(家)560号 審判

申立人 朴要哲

主文

申立人の外国人登録上の名「要哲」を「哲」と変更することを許可する。

理由

1  本件申立ての趣旨は、主文同旨の審判を求めるというものであり、その理由の要旨は、申立人は幼少の時から「朴哲」の名前を使用してきて、周囲もこれが本名であると思っている状況にあるというものである。

2  本件にあらわれた資料によれば、申立人は日本で生まれ、特別永住者の資格で本邦に在留する外国人(外国人登録上の国籍は朝鮮)であるところ、その出生届は本国の関係当局にはなされておらず、我が国の外国人登録を受けるのみで、今日まで専ら我が国に生活の根拠をおいてきたこと、外国人登録原票に登録された氏名は「朴要哲」(名の部分は「要哲」)であるが、幼少の時から「哲」の名前を使用してきて、周囲からもこれが本名であると思われている状況に至っていること、以上の事実を認めることができる。

3  外国人登録における名の登録は、日本において一般に理解できる形で表記するとの制約を受けつつも、本来、当該外国人の国籍の属する国において登録された公簿上の名の表示を正確に登録するものに他ならず、そのような公簿上の表示と別に定め、或いは変更できる性質のものではないから、一般に外国人登録における名の変更許可の申立ては、単に我が国における外国人登録上の登録名の変更に関わるものに過ぎないとみることはできず、当該本国の公簿上の表示の変更を求める実質を有するものと解するほかなく、そのような事項には日本の裁判所の裁判権は及ばないというべきである。しかしながら、申立人の場合にあっては、上記のような本国における登録された名はもともと存在しないのであって、我が国における外国人登録上の登録名を変更したからといって、その本国が国民の名を登録・管理する固有の権限となんら抵触するものではない。申立人のように、特別永住者の資格で本邦に在留する外国人で、本国における公簿上の名を有しない者は多数存するところ、そのような者にとって、外国人登録上の名が、我が国における社会生活を続けていくうえで、日本人における戸籍に表示された名と同様の個人識別等の機能を有していることは顕著な事実である。してみれば、このような場合に限っては、上記外国人登録上の名の変更許可の申立ては、戸籍法の規定に基づく名の変更許可の申立てに準じる性質を有するものとして、我が国の家庭裁判所の管轄に属するものであり、当該外国人の国籍の属する国がその国民の称すべき名を登録・管理する権限とは全く関わりのない次元での問題にすぎず、専ら日本法を適用して、戸籍法の規定に基づく名の変更と同様の基準でその許否を決すべきものであると思料される。

4  以上のとおり、本件申立てについて当裁判所が管轄権を行使することに問題はないところ、前記認定の事実によれば、本件申立ては許可すべきものと認められるので、主文のとおり審判する。

(家事審判官 八田秀夫)

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